朝、畑へ向かう道。
夏はもう始まっています。
夜明けの空気はまだ少しだけ涼しいのに、土はすでに熱を抱え、野菜たちは強い日差しを迎える準備をしています。8時にもなれば、畑はまるで別世界です。汗が止まらず、水筒はあっという間に空になり、昼食の前には身体の動きまで重たく感じます。
夏とは、私たちが「暑い」と感じる季節である以前に、自然そのものが熱を帯びる季節です。
そして、その自然の一部である私たちの身体もまた、同じように夏の影響を受けています。
アーユルヴェーダは、この当たり前だけれど見落としがちな事実から始まります。
身体は自然から切り離された機械ではなく、季節とともに変化する存在なのだ、と。
目次
Toggle夏になると、なぜこんなにも疲れるのだろう
「食欲がない。」
「冷たいものばかり欲しくなる。」
「夜になっても身体が火照る。」
「些細なことでイライラしてしまう。」
夏になると、多くの人が同じような変化を経験します。
私たちはつい、「夏バテだから仕方ない」と片づけてしまいますが、アーユルヴェーダではこれらを身体からの大切なメッセージとして受け取ります。
夏には「熱」という性質があります。
太陽が大地を温めるように、その熱は私たちの身体にも入り込みます。体温を調整するために大量のエネルギーを使い、水分を失い、消化に使える力は少しずつ減っていきます。
だから食欲が落ちるのは、身体が怠けているからではありません。
暑さの中で生き抜くために、身体がエネルギーの使い方を変えているのです。
火を消すのではなく、火と付き合う
アーユルヴェーダでは、夏は「ピッタ」が高まりやすい季節だと考えます。
ピッタは、火や熱の性質を持ち、消化や代謝、判断力などを支える大切なエネルギーです。
しかし、必要以上に高まると、その火は身体や心を焼き始めます。
胃が熱くなり、肌が荒れ、眠りが浅くなり、怒りっぽくなる。
だからといって、氷の入った飲み物を何杯も飲み、冷たいものだけを食べれば良いわけでもありません。
勢いよく火を消そうとすると、今度は料理を作るための火まで消えてしまうように、消化の力まで弱くなってしまいます。
アーユルヴェーダが目指すのは、「熱をなくすこと」ではなく、「熱と調和すること」。
その絶妙なバランスが、夏を快適に過ごす鍵になります。
夏野菜は、自然からの季節の手紙
畑の野菜を眺めていると、夏野菜には共通した特徴があることに気づきます。
きゅうりはみずみずしく、冬瓜はたっぷりと水を蓄え、ゴーヤには独特の苦味があります。
青じそやミントは爽やかな香りをまとい、オクラは身体を潤すような粘りを持っています。
植物は、自分が生きる季節に合わせて姿を変えています。
強い日差しの中でも枯れないように水を抱え、害虫や乾燥から身を守るために苦味や香りを育てるのです。
そして不思議なことに、その季節に育つ野菜は、人間の身体にも同じような働きをもたらします。
水分を補い、熱を穏やかにし、消耗した身体を支えてくれる。
旬とは、単に「おいしい時期」というだけではありません。
自然が「今のあなたにはこれが必要ですよ」と差し出してくれる贈り物なのかもしれません。
冷たいものが欲しい。でも、それだけでは満たされない
真夏に冷えた飲み物を飲む瞬間は、本当に気持ちのいいものです。
けれど、その爽快感は長くは続きません。
冷たいものを摂り過ぎると、一時的には熱が和らいでも、胃腸は冷え、消化する力は少しずつ弱くなっていきます。
その結果、身体は十分に栄養を受け取れず、さらに疲れやすくなる。
だからアーユルヴェーダでは、「冷やすこと」と「消化を守ること」を同じくらい大切に考えます。
常温の水や白湯、旬の野菜、ほどよく冷ました食事。
派手さはありませんが、こうした穏やかな選択の積み重ねが、夏を軽やかに過ごす身体を育ててくれます。
季節に合わせて暮らしを変える
昔の人は、夏には朝早く働き、昼の暑い時間は休み、夕方になるとまた動き始めました。
それは怠けていたのではなく、自然に合わせて生きていたからです。
現代では、季節が変わっても仕事の時間はほとんど変わりません。
エアコンの効いた部屋で過ごし、夜遅くまで明るい光を浴び、身体は「夏」であることを忘れそうになります。
それでも身体は正直です。
暑さを感じ、水分を失い、休息を求めています。
だからこそ、朝少し早く起きて涼しい空気を吸うこと。
昼は消化の良い食事をゆっくり味わうこと。
夜は照明を落とし、一日の熱を静かに手放すこと。
そんな小さな習慣が、身体を季節へと戻してくれます。
自然は、いつも答えを持っている
アーユルヴェーダを学んでいると、「何を食べればいいですか」と聞かれることがよくあります。
もちろん、おすすめの食材やスパイスはあります。
けれど、それ以上に大切なのは、季節を観察することです。
畑では何が育っているのか。
市場にはどんな野菜が並んでいるのか。
身体は何を心地よいと感じ、何を重たいと感じているのか。
自然は、いつも静かに答えを示しています。
私たちは忙しさの中で、その声を聞き逃しているだけなのかもしれません。
とはいえ具体的に知りたい!夏の食事
前章で、自然に答えがあると述べたものの、具体的に何が良くて、何がだめか、知りたいと思うのが人間のエゴだと思います。
アーユルベーダの中で簡単に良い悪いはありませんが、推奨できるものはもちろんあります。
夏は、甘味、 苦味、 渋味を 好む季節であり 、冷たくて液体で、少し油っぽい食べ物を楽しむ季節でもあります。
新鮮な果物やサラダを楽しむのに最適な季節です。
また、牛乳、バター、 ギー 、カッテージチーズ、ヨーグルト、そして時にはアイスクリーム(食べすぎないように!)も。
蜂蜜と糖蜜を除くすべての未精製甘味料は体を冷やす効果があり、夏の時期には適量であれば楽しむことができます 。
暑さをしのぐ飲み物としては、ミントやライム、少量の黒糖を加えた冷たい水または常温の水、甘いラッシー、ペパーミント、フェンネル、ローズなどの清涼感のあるハーブティーもおすすめ。
コリアンダーシードを一晩水につけたコリアンダーウォーターは優しく熱を冷ましてくれます。
あるいは意外かもしれませんが、少量であればビールを飲むのも良いでしょう。
アーユルベーダを学ぶ人は噛みつくかもしれませんが、そんなことは百も承知。
アルコールはピッタを増大させますが、少量であれば消化の火を助けます。
また、発泡性はヴァータを高めるので、夏の熱気で体がダル重くなった時は、むしろ体を軽くしてくれます。
夏はビールの季節!と体が欲するのはそれなりに理由があるのです。
氷入りの飲み物は避けた方が賢明です。消化力を弱め、体内に毒素を生み出すからです
酸っぱい果物や未熟な果物、熟成チーズ、ニンジン、ビーツ、大根、タマネギ、ニンニク、ショウガ、マスタードシードなどの体を温める野菜や香辛料は控えめにしましょう。
唐辛子やカイエンペッパーなどの極端に辛い食べ物はできるだけ避けてください。
また、サラダなどの生野菜は、夕食時よりも昼食時に食べた方が消化が良いということも覚えておいてください。
あくまでも参考に。
夏のおすすめ野菜と果物
アーユルベーダは「何を食べるか」ではなく「どう食べるか」です。
なので、おすすめ野菜や果物、というコンテンツは私はあまり好きではありませんが、あえてピックアップしておきます。(※あまりこれに囚われすぎないように!)
【好む果物】
りんご、アボカド、マンゴー、メロン、ベリー類、梨、さくらんぼ、パイナップル、プラム、ザクロ、ぶどう、プルーン、ライム
凍らせたプラムを自然解凍させて食べるとスッキリしますね!
【好む野菜】
アスパラガス、きゅうり、いんげん、ブロッコリー、ケール、レタス、キャベツ、オクラ、カリフラワー、クレソン、ズッキーニ、セロリ
セロリはスープ類に入れると適度な風味を与えて食べやすくおすすめ。
穀類は概ねどれでも食べましょう。
【豆類を好む】
豆は一般的に:
・軽い(ラグ)
・乾燥性(ルクシャ)
・渋味(カシャーヤ)
・冷性寄り
つまり
・ピッタを鎮める◎
・ヴァータを増やす⚠
夏バテ気味の人はかえって負担になることもあるので注意しましょう。
よく煮て柔らかく、ヴァータ体質の人はギーなどオイルを上手く使って。
※なので、これを見てもわかるように、「何を食べるか」より「どう食べるか」なんですね。
【オイル】
ココナッツオイルは体を冷ます効果あり。
オリーブオイルは積極的に使っても◯
【スパイス&ハーブ】
・バジル
・フェンネル
・カルダモン
・ライム
・ミント
・パセリ
・コリアンダー(シード/リーフ)
・ディル
【好んで食べたい動物性食品品】
・淡水魚(鮎、やまめなど。うなぎもよい)
・エビ
・貝類
と書くと、これも批判があるでしょう。
貝類はピッタを冷ましますが、淡水魚とエビはピッタを増やし、消化も重い。
しかし、別の観点では滋養が高く、エネルギー補給に最適です。
消化を助けたり熱を冷ます他の食材と組み合わせることで、すべてがプラス効果になります。
例えば「うざく」(うなぎときゅうりの酢の物)などは夏の代表的な日本の食事。
何が良いか悪いかではなく、「昔の日本人(あるいは各国の人)は夏、何を好んで食べたか」を考えてみてください。
盲信的なバイブルを求めるよりも、自分で考え、楽しむこと。
自然に問う、自分の身体に問う。
そういうことを大切にしましょう。
おわりに
夏を元気に過ごす秘訣は、自然に勝つことではありません。
暑さを敵にするのでも、無理に我慢するのでもなく、その季節に合わせて暮らしを少しだけ変えてみること。
旬の野菜を味わい、朝の風を感じ、身体の声に耳を傾ける。
そんな何気ない選択が積み重なると、夏は「耐える季節」ではなく、「自然とのつながりを最も感じられる季節」へと変わっていきます。
アーユルヴェーダとは、特別な健康法ではありません。
自然のリズムを思い出し、その流れの中で自分らしく生きるための、静かな知恵なのです。
※今回は食の研究会として食にフォーカスしましたが、またいずれヨガ、エクササイズ、ライフスタイルについて書くかもしれません。

