続編|アーユルヴェーダから見る、日本料理とハーブ・スパイス

前回の記事では、日本料理が世界の食文化と比べて、ハーブやスパイスを控えめに使う理由について考えてみました。

では、この日本料理をアーユルヴェーダ的視点で見た場合、どういう評価になるでしょうか?

実は、この問いには簡単な答えはありません。

なぜなら、アーユルヴェーダは「インドで生まれた医学」であり、日本料理は「日本の風土の中で育まれた食文化」だからです。

それでも両者を比べてみると、とても興味深い共通点と違いが見えてきます。

アーユルヴェーダは、なぜスパイスを重視するのか

アーユルヴェーダでは、スパイスは単に料理をおいしくするためのものではありません。

 

最も重要なのは、

「消化の火(アグニ)を整えること」

です。

 

食べ物は、胃に入っただけでは栄養になりません。

しっかり消化され、吸収されて初めて身体を作ります。

そのためアーユルヴェーダでは、

 

・クミン

・コリアンダー

・フェンネル

・生姜

・ブラックペッパー

・ターメリック

 

などを組み合わせ、料理そのものを消化しやすく整えていきます。

 

つまり、スパイスは「味付け」ではなく、「身体の働きを助ける道具」でもあるのです。

実は日本料理にも、同じ考え方がある

ここで面白いことに気づきます。

 

日本料理にも、消化を助ける薬味がたくさんあります。

 

・刺身にはわさび。

・焼き魚や天ぷらには大根おろし。

・冷奴には生姜。

・蕎麦にはねぎ。

・秋刀魚にはすだち。

 

どれも「彩り」のためだけではありません。

 

脂をさっぱりさせたり、消化を助けたり、身体を整えたりする知恵として受け継がれてきました。

 

表現は違っても、「食べることは身体を整えること」という考え方は、日本料理とアーユルヴェーダに共通しているように感じます。

違うのは「ハーモニー」と「引き立て」

ただし、大きな違いもあります。

 

アーユルヴェーダでは、一つの料理に複数のスパイスを組み合わせることがよくあります。

それぞれが役割を持ち、お互いを補い合います。つまりは調和(ハーモニー)が生まれるわけです。

 

一方、日本料理では、

必要最小限の薬味を添えることが多いでしょう。

 

アーユルヴェーダなら、クミンやマスタードシード、カレーリーフなどでテンパリング(油で香りを立たせる工程)をすることもあります。

 

しかし、日本では、例えば味噌汁ならば、味噌そのものの香りを生かし、最後に刻みねぎを散らす程度です。そのほうが香りが際立ち、味噌の風味が引き立ちます。

 

どちらも美味しい。

 

ただ、料理に対する発想が違うのです。

 

私はこれを、

アーユルヴェーダは「重層的な調和を楽しむ料理」、日本料理は「素材を引き立て引き出す料理」

と考えています。

日本料理はアーユルヴェーダでは評価できないのか?

そんなことはありません。

 

時々、

「アーユルベーダの食はハーブとスパイスから」

という意見を見かけます。

 

私は、この考えには少し違和感があります。

 

アーユルヴェーダの目的は、インド料理を世界中に広めることではありません。

 

その土地、その季節、その人に合った暮らしを選ぶことです。

 

古典にも「デーシャ(土地)」という考え方があります。

 

乾燥した地域と湿潤な地域では、必要な食事は違う。

 

寒い土地と暑い土地でも違う。

 

それなら、日本で何千年も受け継がれてきた食文化にも、日本という風土に適応した理由があるはずです。

 

私は、日本料理をより深く理解するための視点としてアーユルヴェーダを学びたいと思っています。

日本人だからこそできるアーユルヴェーダ

アーユルベーダ的食の実践は「インド料理をそのまま再現して常食すること」が日本でアーユルヴェーダを実践することというわけではありません。

もちろんインド料理、美味しいですね!

私も大好きです。自分でも作るし、結構な頻度で食べる方だと思います。

 

それはそれとして、一方で、日本人として、

日本の旬の野菜を使い、

日本の味噌や醤油を生かし、

昆布や鰹節のだしを大切にしながら、

必要に応じてスパイスを取り入れる。

日々の食卓でそれを味わう。

 

そんな料理こそ、日本で暮らす私たちにとって自然なアーユルヴェーダではないでしょうか。

 

例えば、

・夏には大葉や茗荷、柚子でピッタを穏やかにする。

・冬には生姜や山椒でヴァータを温める。

・春には苦味のある山菜や香りのある薬味でカパを軽やかにする。

 

和の食材とアーユルヴェーダは、決して対立するものではありません。

 

むしろ、お互いを理解することで、より豊かな食卓が生まれると感じています。

おわりに

私は、アーユルヴェーダを学ぶほど、日本料理の奥深さに気づかされます。

 

同時に、日本料理を知るほど、アーユルヴェーダの考え方にも新しい発見があります。

 

どちらかが正しく、どちらかが間違っているのではありません。

 

どちらも、それぞれの土地で、人々が長い時間をかけて積み重ねてきた「生きる知恵」です。

 

だからこそ私は、日本人としてアーユルヴェーダを学ぶなら、「インドの知恵を日本に当てはめる」のではなく、「日本の食文化をアーユルヴェーダというレンズで見直す」ことを大切にしたいと思っています。

 

そうすると、毎日の味噌汁や季節の薬味、旬の野菜が、これまでとは少し違った景色に見えてくるかもしれません。

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